不動産コンサルティング 

不動産コンサルティングの実務について

第6章 企画提案書 6-2

2. 企画提案書の基本構成と作成上の留意点 

 依頼される業務内容によって、当然、企画提案書の構成や内容も異なったものとなるが、以下に基本構成の一例を示します。

(1) 企画提案書の基本構成

A. まえがき(挨拶、はじめに)
B. 対象地の概要
 a. 敷地条件
 b. 立地条件
C. 市場動向
 a. マクロ市場の動向
 b. 広域圏の動向
D. 事業の基本的な考え方
 a. 周辺市場の分析
 b. 立地評価
 c. 計画の基本コンセプト
E. 建物計画
 a. 計画の前提
 b. 計画の問題点
 c. 建物概要
 d. 各種図面
 e. 主要仕上・設備表
F. 概算事業収支計画
 a. 初期投資(事業用)
 b. 収支項目・支出項目
 c. 長期事業収支予想表
G. 今後の検討問題
H. 添付資料等

(2) 作成上の留意点

 上記の基本構成に沿って説明します。

A. まえがき

 企画提案書のスタートとなるところで、「はじめに」「ご挨拶」などの表現が使われます。企画提案書の内容を依頼者に説明する際、最初にここを読んでから具体的な説明に入ることになります。
 この企画提案書で依頼者に何を伝えたいのか、依頼者へのメッセージをまとめる積りで、少なくとも次の事項について記載すべきです。
a. 企画提案書の目的
b. 企画提案の概要
c. 企画提案の機会をいただいた感謝

B. 対象地の概要

 主な記載事項としては下記のとおりであるが、提案しようとする用途により、記載事項も異なります。
a. 敷地条件
ア. 対象地の概要 所在、地目、地積(公簿、実測)、法的規制(都市計画、用途地域、建ぺい率、容積率、その他の建築規制、条例、指導要綱等)
イ. 対象地の特性 敷地形状、道路幅員、接道状況、地盤高、隣接地の状況等
b. 立地条件
ア. 交通利便性 主要交通機関からの距離、都心への接近性、交通量等
イ. 周辺施設 商店街、周辺利便施設等
ウ. 環境条件 街並、公園、自然環境等
エ. 将来の動向 用途規制見直し、都市計画事業、都市計画道路、区画整理等

C. 市場動向

 ここでは、全体的なマクロ市場動向を分析します。対象地周辺の市場動向については、土地利用計画に直結するものとして、次項の「事業の基本的な考え方」の中で関連して説明します。
a. マクロ市場動向分析
① マクロ市場分析はなぜ必要か
 土地の有効利用の事業は、工事の着工から竣工までの期間だけでなく、賃貸管理も含めて極めて長期にわたります。税務上の償却期間は40年以上に及び、金融機関からの借入期間も20年前後になることが多いです。企画提案書で提案する事業収支は、こうした長期にわたる賃料の想定や金利の見直し等について、一定の前提を置きながら予測を交えて設定することになります。
 企画提案に当たって、リスクのすべてを予測するのは不可能であるが、過去の経験から予測される範囲の変動の中で、リスクを吸収できる余裕のある事業収支ができるか、又は何らかの対応策が施されているかについて検討されたものでなければなりません。
 従って、国内の経済の動向等に無縁の企画提案書はあり得ません。企画提案書の、提案時点における経済環境の分析は当然として、コンサルティングに携わってきた過去の経過を基に、今後の見通しを立てることが極めて重要になります。
② マクロ市場分析はどの程度まで記載すべきか
 企画提案の内容が、売却・処分のように事業着手から完了まで比較的短期間のものが、有効利用のように相当長期にわたるものかによって、マクロ市場との関係も当然違いが出てきます。
 マクロ市場分析は、広い視野に立った見方を基本とするので、周辺市場分析と違い、あまり細かく述べる必要はありません。データをどう見るかという視点が大切であり、例えば次のようにキーワードをうまく整理する方がわかりやすいです。

③ どこからマクロ環境の情報を得るか
 新聞、雑誌、本などから収集が基本となります。本や雑誌は政府刊行物、専門のシンクタンク、ビジネス系の出版社などから数多く出ているが、インターネットで様々な情報が得られます。マクロの動向を知るための最も一般的なデーターで、政府が出している主なものは次のとおりです。
・日銀短観
・景気動向指数
・月例経済報告
・金融経済月報
・地域経済動向
・経済財政白書
・土地白書
・国土交通省白書
④ 集めた情報をどう使うか
 企画提案書を作成するためにデータを集めるという作業は、大変な労力と時間を必要とするため、常日頃から収集・整理の習慣を付けておかないと、いざという時に役に立ちません。収集の仕方も漫然と集めるのではなく、必要な情報をできるだけ絞って効率的に集め、いつでも取り出せるように整理しておくことが大切です。
 そうして整理しておいたものを、企画提案書を作成する際に必要に応じて使って行きます。
b. 広域圏の市場分析
 広域圏とは、首都圏、東京圏、関西圏、大阪圏などをいいます。
 ここでの市場分析は、家賃相場の変動や住宅・ビルの供給量の変動など計画に直結したデータの分析が重要です。前述の政府資料のほか都道府県発表のデータ、民間調査機関の調査レポートなどからも動向を把握します。これらのデータも定期的に整理しておくと、時系列で把握できて傾向がわかりやすいです。